陽のあたる場所へ
川沿いの道路を数キロ走り、脇道に逸れる。
緩やかな山道を少し上り、別荘や会社の保養所などが立ち並ぶ隠れリゾート地のような場所に、その喫茶店はあった。
車を停めて降りたものの、龍司はその場で何かを考え込むように、なかなか一歩を踏み出せずにいた。
沙織は、後ろから龍司の肩に両手を置き、力を込めると、その手を背中にずらして、そっと押した。
その掌の温かさを感じて、龍司はそれを勇気に変える。
木目調のどっしりとしたドアを、ゆっくり開ける。
すると、カウンターの中から、懐かしい笑顔が現れ、龍司は胸が詰まって声にならない。
卓也も、想いは同じだった。
「龍司…。久し振りだな。良かった、元気そうだ。
何だか…大人の顔になったな…」
お互いの顔を見つめた後、卓也がやっと口を開いた。
「うん。もう30だからね…。
…長い間、来れなくてごめん。兄さん、身体の調子はどう?」
「大丈夫だよ。こっちは空気も良いし、昔みたいに忙しくもないからさ」
ぎこちないながらも、自然と笑みを交わすことができた。