陽のあたる場所へ
父が兄の卓也よりも龍司を後継者に選んだのは、卓也の文才を見い出し、会社で仕事に忙殺されるより、執筆活動に専念して欲しいという意味もあったらしい。
「卓也は幼い頃から、本を読むのが好きだったしな…とにかく感性がとても豊かなんだ。
学生の頃に書いた小説を、何度か別の出版社に送って、賞の候補に残ったこともあるんだ。
専念する時間さえあれば、とてもいい作品を書くんじゃないかと期待してるんだがな…。
そして龍司は、人を惹き付け、引っ張る力がある。
子供の頃から、何かと目の付け所が人と違っててな…アイディアが面白いんだ。
企画や経営を任せたら、私の会社は今よりずっと良くなる。
将来が楽しみだよ。
そしていつか卓也の作品を、うちの会社から、龍司が出版する。
それを手に取って読むのが、私の夢なんだ」
いつか父が母に、目を輝かせて語っていたらしい。
それを聞いたのは、龍司が父を社長の座から引き摺り降ろした後の話だった。
そして、そんな夢を持っていた父は、もう二人の息子の顔もわからない。