陽のあたる場所へ
「海野沙織さん…でしたね?どこかで聞いた名前だと、ずっと考えてたんですが…
父から聞いていたのを思い出しました」
卓也が柔らかな眼差しで、沙織に話し掛ける。
「え?先代の社長からですか?」
「はい。あったかいコーヒーのような娘がいると」
「は?コーヒー…ですか?…私が?…」
「ええ。出版社なんて、みんな忙しくてカリカリしてるじゃないですか。
…で、ちょっと一息つきたいとか、気分変えたい時に飲む一杯のコーヒーに、貴女、似てるんですって。
貴女と接すると、ホッとして、癒されて、落ち着くんだそうです。そして、また頑張ろうって気になるんだと。
社員達を見ててもそう思うと、いつか話してた事があります」
「本当ですか?社長がそんなことを…」
先代社長の穏やかな表情が思い出される。
「良かったな…龍司。お前も彼女に救われたんだな…」
卓也の言葉に、龍司が少し恥ずかしそうに、沙織に目線を送る。
「あ、いえ…でも私、ドジばっかりしてて、そんな誉められるようなことは何も…」
「ま、確かにそうだよな」
龍司が沙織を見てクスッと笑い、沙織が少しムッとして何か言い返そうとした時、それを遮るように、龍司がすぐに口を開いた。
「でも…、救われたのは、事実だから…」