陽のあたる場所へ


「神崎さ~ん!」

先程の介護士が、走り寄って来て、古ぼけたグローブを彼に手渡した。

小学生だった頃、父が買ってくれた、兄とキャッチボールをした、あのグローブだ。
あまりの懐かしさに、胸が締め付けられるような気がした。


「以前、奥様が持って来てくれたんです。息子さんが来たら、一緒にキャッチボールするんだ、って言ってたんですよ。凄く嬉しそうに…。

そうかと思うと、記憶が何年か飛んで、家族を傷付けたと言って、酷く苦しんだり…
記憶があちこちに飛ぶみたいですね。

でも、息子さん達が子どもだった頃の記憶を辿っている時は、とても素敵な表情をしてるんですよ。
少しでも、幸せな想い出に浸れる時間が増えるといいですね」

介護士は、龍司と沙織に笑いかけると、忙しそうに立ち去って行った。
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