陽のあたる場所へ
エピローグ
⑯ restate
~ 一年後 ~
『 “ 陽のあたる場所を探して ”
完
長瀬 楓 』
「はい、ありがとうございます。お疲れ様でした」
沙織は頭を深く下げると、目を通した原稿を机の上で 〝 トントン 〟 と小気味良い音を立てて揃えた。
「あ~…やっぱこの音聞く瞬間、好きだわ~」
楓がソファーの背もたれにもたれ掛かって、両腕を上げて大きく息をして言った。
以前、楓が原稿を入稿した時、担当者が原稿を揃える音を聞くのが好きだと言っていた。
達成感と解放感を感じる瞬間なのだそうだ。
だから沙織は、こんな何でもない仕草の一つにも心を込める。
「沙織ちゃん、原稿は渡したわよ。こっちはデータね。
さて…と…、仕事モードはこれで終わり!
で、何か話があるんでしょ?」
「……えっ…?」
ニヤニヤ笑いながら、沙織が口を開くのを待っている楓の前で、机の上に置いたスマホの着信音が鳴り響いた。
「あ~!何よ、もう!せっかく今から楽しい話…」
顔をしかめながら、ディスプレイを覗いた楓の表情が、人が変わったようにパッと輝く。
「あっ、裕一郎?ツアーお疲れ様!…うん、今夜帰って来れるの?…私も原稿上げて一段落着いたとこ。……うん、わかった、裕一郎の好きな物、作ってあげるよ。じゃ、待ってるねー!」