陽のあたる場所へ
楓の夫は、バンドのギター&ボーカルで、時にドラマの脇役などもこなす。
10年以上前、楓が書いた脚本のドラマの主題歌を、裕一郎のバンドが担当し、それが縁になり、友人から飲み仲間に、そして恋人になり、結婚した。
ドラマの主題歌は大ヒットし、ブレイクしたかのように思われたが、後が続かず、一時は一発屋と扱われていたが、その低迷時代を、楓は支え続けた。
「バンドだから、音楽に関係ない番組には出ない」
そんな、ミュージシャンにありがちなこだわりを捨て、とにかく多くの人に認知して貰う為、どんな番組でも断らない姿勢を貫いているうち、老若男女、ファン層の広いバンドになって行った。
ーー音楽も、まず、存在を知って貰わなきゃ、聴いて貰うこともできない。
小説だって、同じ。存在を知って貰わなければ、ページを捲って貰う事もできない。
恋愛も然り。
相手に自分がここに居る、貴方の事を想っているということを伝える努力をしなければ…ーー
楓が裕一郎を支えて来た言葉、そして、沙織にも向けられた言葉でもある。
そして、それぞれの現在(いま)がある。