陽のあたる場所へ
「あ、そうそう…今、社長さん、最高に忙しいのよね?遅くなったけど、お兄様、直川賞受賞おめでとう!」
「ありがとう。楓さん。
お兄さんの作品を彼の手で出版することが、先代社長の願いだったから…
それが叶って本当に嬉しいです」
龍司から聞いていた、二人の兄弟が父の為に、どうしても叶えたかった願い。
それが、今やっと現実になろうとしている。
「良かった…。私も先代の社長には随分良くして頂いたから嬉しいわ。おめでたいことが続いて、本当に素敵ね。私も是非読ませて貰うわね」
「有り難うございます。あの…楓さんは、賞関係には興味ないんですか?」
「あ~…それはないかな~…ってエラソーに言えるようなモンじゃなくて、私、高尚な文学なんて書けないもん。
お兄さんみたいに努力と才能の作家さんは勿論必要だけど、私みたいに庶民派の作家も居てもいいでしょう?
私は、私の書いた物を身近に感じて共感してくれる人がいたら、それが一番嬉しいのよ」
「その想い、ここに詰まってますね」
沙織は、改めて、原稿の入った封筒を胸にぎゅっと抱き締めた。