陽のあたる場所へ


絶望の淵に叩き落とされたあの日から、あれほど嫌いだったパンプスのヒールの音が、今は温かく心に響きながら、近付いて来た。

廊下から、開け放したままのドアを、その靴音が入って来たのを聞きながら、龍司はそっと目を開け、振り返った。




「只今戻りましたー!
社長、廊下まで聞こえてますよ。ちゃんと午後一には回収すると言っておいたじゃないですか。あんまり苛々するとハゲますよ」

外の空気を纏いながら戻って来た沙織が、ヒカリに微笑みかけながら、社長のデスクへと向かう。

「なっ!俺のどこがハゲ…」

「ものの例えです。苛々は身体に悪いですよって。
煙草もね。はい、これ、原稿です」

沙織に軽くかわされ、原稿を手渡されたので、龍司はそれ以上何も言い返せなくなった。

「あ、あぁ…。ご苦労さん」
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