陽のあたる場所へ

「あ、社長。お疲れ様です」

事務所に戻って来た龍司に、男性社員の吉沢真悟(ヨシザワ シンゴ)が、帰り支度をしながら声をかけた。

「お前、一人か?」

「海野さんが図書資料室にいる筈なんですけど、なかなか戻って来なくて…。
事務所、このままにして帰る訳に行かないんで、資料室に今から様子見に行こうかと…」



吉沢は、光里と席を並べていて、沙織にとっても気を許せる後輩だ。
とても誠実だし、先輩への気遣いも忘れない。

二人にとって可愛い存在なので、三人で飲みに行く事もある。



「まだやってんのか…全くあの人は…。
わかった。俺が見に行くから、吉沢は帰っていいよ」

「あ、大丈夫です。僕が行って来ます」

社長はいつもやたら忙しいし、沙織が最近残業続きで不調なのも見ていて気になっていたので、吉沢はその申し出を断り、出口のドアに向かおうとした。

「俺が指示した仕事なんだ。どうせチェックしなきゃいけないからいいよ」

「そうですか。わかりました。じゃ、すみませんが、お先に失礼します」

沙織のことが気になった吉沢だったが、龍司に頭を下げ、ドアを出て行った。



吉沢が帰った後、龍司は図書資料室に向かった。

「海野…さん…?」

電気はついているが、誰の姿も見当たらない。
書棚の間を見ながら奥へと向かうと、棚の間の長椅子の上に沙織が倒れているのを見つけ、駆け寄った。

「おいっ!どうした!海野?!大丈夫か!」

龍司は沙織の肩と背中を腕で起こすようにして、頬を軽く叩いた。


沙織は、ゆっくり目を開けると、半開きの目で龍司を見上げた。

「りゅ…ぅ…」

目の前の龍司のネクタイに手を伸ばすと、それを掴んで、自分の方へ引き寄せる。
龍司の顔が沙織の至近距離まで近づいた。

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