陽のあたる場所へ



先代の社長が一代で築き上げた出版社、
『向陽(コウヨウ)出版』

老舗の大手出版社とは規模も違うし、それらと比べたら、まだまだ知名度は高くはない。
しかし、他の会社が手掛けない独自の企画内容が受けて、注目を浴び、業績も延びている。

型にはまらず読者を惹き付けるスタイルに、沙織自身も惹かれ、入社した。





『新社長』とは、前社長の息子、神崎龍司。
(カンザキ リュウジ)

今までは後継者としての修行の身ということで支社勤務だったが、前社長の退任に伴い、社長として就任し、この本社に赴任したのだ。



先代の社長が心筋梗塞で倒れ、復帰の目処が立たないと、突然聞かされた時は驚いた。

副社長が当面代理として務めながら、社長の快復を待つのか、もしくは、そのまま昇格して社長に就任するのか、社員達の殆どはその二通りしか考えていなかったので、まさに寝耳に水の状態で社内はざわついた。

確かに社長の息子は、仕事熱心の上にかなりのキレ者、入社以来、頭角を現し、その実力が認められ、僅か数年で支社長にまで昇りつめたと聞いていた。

そうは言っても、まだ若い彼が、突然、社長として本社に来るなどとは考えもしなかったのだ。



そしてあくまでも噂だが、息子の龍司が、重役会議で解任要求を突き付け、父親を社長の座から引きずり下ろしたという話もある。

いずれ何年かしたら自然に手に入る社長の座なのに、何故そこまでして‥。

噂が独り歩きした憶測に過ぎないのかも知れないが、もしその話が事実なら、冷血な性格のとてもやりにくい上司になるのかも知れない‥。
そんな不安を感じていていたのは、きっと沙織だけではないだろう。




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