陽のあたる場所へ
「誰もいませんよね?……何だ、消し忘れか…」
守衛はそう確認すると、電気を消した。
その直後、沙織の脚がよろけて、パンプスのヒールのカツッという音が響いた。
思わず息を飲む沙織。
「あれ?…」
扉を閉めかけていた守衛は、懐中電灯を点けて中を照らし始めた。
僅かな灯りが書棚の隙間から届いて来て、緊張が走る。
「残念だな…強制終了だ」
耳元で意地悪そうな声でそう言うと、龍司は沙織から離れた。
そのまま背を向けると、出口へ向かい、守衛に声をかける。
「ご苦労様。申し訳ない、奥の方で調べものをしてたんで気付きませんでしたよ」
「あっ!社長、いらっしゃったんですね?申し訳ありませんでした」
「いや、いいんです。もう用は済んだから。」
慌てて、電気をつけようとした守衛を制して、龍司は資料室を出て行った。
一人取り残された沙織は、まるで糸が切れたように、長椅子に座り込んだ。
自分の気配を守衛に気付かれぬように、口を覆って乱れる呼吸を抑えながら、二人の靴音が立ち去って行くのをただ待っていた。