陽のあたる場所へ

何故、こんなにも何事もなかったように振る舞えるのだろう?


沙織が少し遅れて戻った事務所の中は、他の社員はもう誰も残っておらず、二人きりだった。
しかし龍司は、取引先に電話をかけたり、PCに向かったり、書類に目を通したり、仕事を次々に捌いていて、沙織に声をかける事は一切なかった。


沙織は、普通に仕事ができるような心理状態ではなかったけれど、必死に雑念を振り払いながら約束の仕事の手直しをして、提出した。


「よし、OK。お疲れ」

沙織の顔も見ずに受け取った原稿に黙って目を通した龍司は、ただそれだけ言ったきり、またPCに向かってしまった。


「お疲れ様でした。お先に失礼します」

沙織はそう言うと、事務所を後にした。

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