陽のあたる場所へ
もうとっくに終業時間は過ぎており、事務所に残っている人はまばらだった。
自分の席に戻ろうとした沙織に、吉沢が声をかけて来た。
「あ、お疲れ様でした。
大村さん、暫く海野さんを待ちながら仕事してたんですけど、さっき帰りましたよ。LINE入れとくから見て、って言ってました」
「そう…ありがとう」
ついさっき、吉沢の声を頭上に聞きながら、自分と龍司がしていたことが頭の中に甦り、彼の顔をまともに見ることができなかった。
『地下街ウロウロしながら、時間潰してる。終わったらLINEちょうだい』
スマホの中の、光里がよく使うニッコリした顔のスタンプに、少し癒やされる。
けれど、今日はこのまま家に帰って眠りたかった。
今日、光里に会ったら、きっと目の前で泣いてしまう。
それがわかっていたから…。
エレベーターの中で、光里にLINEの返事をして侘びた。
体調がすぐれないと嘘の口実を理由にして。
会社のビルを出ると、地下街にいる筈の光里に会わないように、地上の鋪道を歩く。
街はすっかりクリスマスモードになっていて、街路樹にはイルミネーションが輝いていた。