陽のあたる場所へ
一昨年のクリスマスは、沙織にも恋人がいた。
世間の恋人達がそうするように、夜に待ち合わせて、イルミネーションの中を腕を組んで歩き、いつもより少し豪華な店でディナーを楽しんだ。
大学生の頃から友人関係を経て、5年間付き合っていた彼と別れ、数ヵ月経っても傷心から立ち直れない沙織に、友人が気晴らしにと、会社の同僚や先輩を集め、合コンのような機会を作ってくれた。
そこで知り合った年上の男性に、アプローチされ、付き合うようになった。
優しくて、真面目で、誠実な人。
何よりも沙織を本気で愛してくれた。
前の恋愛で心が疲れていただけに、やっと幸せを掴んだと思っていた。
しかし、プロポーズをされて、気付いた。
愛される喜びに、幸せだと勘違いしていただけなんだと…。
好きだという気持ちに嘘はなかったけれど、生涯を共にしたいと思うほど愛してはいない。
この人の想いには応えられない…そう思ってしまった。
「バカね…結婚なんてそんなもんよ。勿論、愛があるのは大前提だとしても、生涯を共にするのは、お互い無理をせず自分が自分のままで居られる相手の方がいいのよ。先は長いんだから」
友人は、みんなそう言った。
別に、燃えるような大恋愛の末に結ばれるのが理想だとか、少女のような夢を見ていた訳ではない。
年齢のことを考えても、最後のチャンスかも知れないとも思った。
それでも、気持ちがついて行かなかった。
ありふれた普通の幸せに感謝できていなかったのかも知れない。