陽のあたる場所へ


「あ…、海野マジック…」

「何?」

「いや、何度か聞いた事あるんですよ。海野先輩、険悪なムードになってる人達の雰囲気を、いつの間にか和ませちゃうんだって。あ…、でも社長には効かないみたいですね」

「お前なぁ…人を悪魔みたいに」

「あ、すみません」 

吉沢はバツが悪そうに、龍司に軽く頭を下げた。



こいつは本当に思ったことをズケズケ言う奴だな…。
しかし、明るくて屈託がないので、全く嫌味がなく、人を傷つけることもない。
そして、他人のことを真剣に思いやれる奴だ。
それが誰からも可愛がわれる所以なんだろう。


その吉沢が、公私共に慕っている沙織なのだから、人間性は間違いはないのだろう。
そんな事はわかっている。

なのに、何故、彼女に対して、自分はこんなに苛ついてしまうんだろう。

理由なんか、とっくに気付いてる。
彼女の存在が、自分の心の闇に、どうしようもなく踏み込んで来るからだ。




吉沢は、いつの間にか笑顔になっている柳川と、タクシーのドアの前で談笑している沙織を、にこやかに見つめている。


龍司は苦笑いしながら、自分の前髪をクシャクシャッとしながら掻き上げると、沙織に目を向けた。
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