陽のあたる場所へ
すると、柳川が沙織に抱きついたところだった。
「柳川先生!」
また柳川がゴネだしたかと焦った吉沢が、引き離そうと手をかけようとしたが、柳川はすぐに自分から離れ、沙織に握手を求めた。
目にはうっすら涙が浮かんでいる。
「ごめんね、海野さん、無茶ばかり言って。酔っぱらって醜態を晒してしまったよ」
「いえ、私は大丈夫です」
「短い間だったけど、海野さんに担当して貰えて、本当に良かった。作家は孤独な仕事だし、僕はこの通り頑固者だ。それでも君は、いつも僕の気持ちをほぐして、何がベストなのかを一緒に考えてくれた。有り難かったよ。随分支えられた」
「いえ、私は大した事は何もできてません。そんなふうに言って頂けるなんて、こちらこそ有り難いです」
「本当にありがとう。…さ、吉沢くん、行こう。送ってくれるんだろ?これから宜しく頼むよー!」
柳川は、沙織にお礼を言うと、面食らった表情で様子を伺っていた吉沢に声をかけ、背中を軽く叩いた。
「あ、は…はい!」
そして、龍司にも深々とお辞儀をすると、タクシーに乗り込んだ。
「じゃ、吉沢くん、頼んだわよ。
柳川先生、泣きが入った後はもう大丈夫だから。本当はとても優しい人なのよ」
「あ、はい…わかりました。じゃ失礼します」
沙織にそっと耳打ちされて、吉沢はまだ解せない表情のまま、二人に頭を下げるとタクシーに乗り込み、走り去って行った。