陽のあたる場所へ


空港には見送りに行かなかった。
このまま別れてしまったら、もう二度と取り戻すことはできなくなると、気持ちを急き立てられながらも、動くことができなかった。
 
最後の夜、掛けられた言葉に涙を堪え切れない沙織に、淋しそうに笑った後に見せた亮の表情は、強い意志を秘めた、今までに見たことがない冷たい表情だった。


今、思えば、沙織に未練を残させない為の、彼なりの演技だったのかも知れない。


でも、その時は、そんなふうに考える余裕など、全くなかった。
 
自分の将来の為に切り捨てられる、その程度の存在だったのか、 
沙織の将来を考えてくれた末の、愛のある別れなのか…。


長い付き合いの中で、亮の性格も、行動パターンすら、何もかも読めてしまうほど、理解し尽くしていたつもりだった。

それなのに、どんな言葉をかけられても、疑心暗鬼になってしまい、もう沙織には何もわからなくなってしまった。



あの頃、会えば辛くて、会えなくなってからも辛くて、最後は、多分お互いの笑顔を思い出せないようになっていた気がする。

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