陽のあたる場所へ
「沙織…あのさ…、何か辛いことでもあった?」
食事をした後、店を替え、少しお酒も入って、ほろ酔い気分になった頃、亮が言った。
「いや、今日、沙織を見つけた時、何か泣いてたように見えたから…」
「え、あ…そんなことは…」
光里の家からの帰り道、龍司のことを思いながら、涙が込み上げそうになった、そんな姿を見られていたのかと思うと、沙織は焦った。
「何年も離れてて、今日たまたま会った俺が、言うのも何だけどさ、話して楽になれるようことなら、聞かせてくれないか?」
恋人になる前の、仲間だった頃の彼がそこにいた。
「あ、ありがとう。でも何でもないの」
「何でもない感じには思えなかったけどな…」
亮の思いがけない言葉と、優しい眼差しに、胸が締め付けられた。
そう言えば、亮は、沙織のちょっとした変化にも敏感で、いつも誰よりも先に、こうして声をかけてくれたっけ…。
「沙織…何かあった?」
10年も前の、大学生だった彼の、少し背中を曲げて沙織の顔を下から覗き込むような仕草と、優しい眼差しが、目の前を過り、今の亮の姿と重なる。
こういうとこ…全然変わってない…。
懐かしさと、思いがけない優しさと、束の間、忘れかけていた今の自分自身の現状とが、ごちゃ混ぜになって、不覚にも目頭が熱くなるのを、沙織は必死で抑えた。