陽のあたる場所へ

それでも、いや、だからこそなのか、数少ない場面だからこそ、龍司が他の誰かと笑い合っていたり、少しでも穏やかな表情を浮かべたのをたまたま目にすると、何となく見入ってしまっていた。

…あ、こんな表情もするんだ…
と、自分と向かい合っている時には見たことのない雰囲気をまとっていることに気付くのだ。


いつも忙しく何かに向かっている龍司だったが、仕事の合間に煙草をくわえながらほんの僅かな時間、考え事をしている時がある。
窓の外を眺めながら、遠い目をしていたり、伏し目がちで何かを考えている時の瞳は、何故だが言い知れぬ憂いを含んでいるように見えてしまう。

そんな新しい発見がある度に、沙織の中に、どう例えたら良いのかわからない不思議な感情が生まれるのだった。

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