絶対値のゆくえ
「泣くなよ……」
「だって、よっくんの受験の邪魔、したくなかったから。北高、受かってほしかったから」
「…………」
そう伝えたのち、しばらく沈黙が続く。
それは短い時間だったんだろうけど、
私には、君と一緒に勉強を頑張った時間くらいに長く感じた。
しかし、ガタン、と机同士がぶつかる音がして、私は我に返った。
並べられた縦横の列は、君の近くだけ乱れていた。
「何なんだよ! もう! あー!」
両手で顔を覆い、君は感情をあらわにした。
それは、怒りなのか、混乱なのか、わからなかった。
「よっくん?」
「ごめん……」
「え?」
「俺も、北高……受けてない」
私は驚いて自分の涙がひっこんでしまった。
君の目が赤くなっていて、次から次へと涙がこぼれていたから。
次第に君の嗚咽が、2人きりの空間に響いていく。
「うぅ、ごめん……っく、一人にして……」
「よっくん?」
「早くっ、行けよ! こんなんお前に見られたくねーんだよ……うっ」
ボロボロになった君を目にした私は、この場を離れることしかできなかった。