絶対値のゆくえ
「希望する進路を勝ち取った人、妥協せざるを得なかった人、悔しい思いをした人、まだ勝負が終わっていない人、
嬉しさ、達成感、悔しさや妬み、今この教室にはいろんな思いが渦を巻いていると思う。
時々は後ろを振り返ってもいい。だけどもうこの学校に君たちの席はない。
君たちの前に広がっているのは、無限に広がる未来だ。
今いだいている思いを胸に、ここにいる全員が、
その未来へ、前向きな気持ちで羽ばたいていってほしい。
……卒業おめでとう」
最後のHRが終わり、外に出ると
1、2年生たちが花のアーチを持って私たちを迎えてくれた。
歓声を上げながら、人気のある男子に群がる女子たちの姿も見えた。
君も、部活の後輩たちに囲まれていた。
構わず私は、震える足を頑張って動かし、君のもとへ向かった。
「よっくん!」
「ん?」
声をかけると、君は女子たちの輪から抜け出し、私のもとへ来てくれた。
もうすぐ春がやってくる。
空は雲一つない水色が広がり、直射日光にぴりっとした寒さが絡みついていた。
中学卒業と高校合格。
どちらも手にしたはずなのに、君の表情に清々しさは全く感じられない。
「第二ボタン、ください」
私は震える声でそう言って、君を見つめた。
しかし。
「あ。ごめ……。ほら」
君の学ランのボタンは、すでに無くて、引きちぎられた糸くずが等間隔に並んでいた。