絶対値のゆくえ
「すごいね、人気者だね」
「まーね」
「…………」
「…………」
私と君の間にだけ異様な空気が漂っていたのか。
この距離を邪魔する声や人はなかった。
もう最後なんだ。
ぐっと拳を握りしめて、私は口を開いた。
「よっくん、私に言いたいことって何だったの?」
「お前こそ、何だったんだよ?」
せっかく勇気を振り絞って聞いてみたのに。
君は目をそらし質問で返してきた。
「私は……」
「いや、いい。言うな」
そう言って、君はボタンのとれた上着を脱ぎ、シャツ姿になった。
その姿にどきっと心臓が高鳴った。
「よっくん?」
「いず」
名前を呼ばれた瞬間、ばさりとその制服が頭に降ってきた。
いや、君は私と2人きりの空間を作ったのだ。きっと。