絶対値のゆくえ
かぶせられた制服の中、君が耳元でささやいた。
「弱くて、本当にごめん」
悲しい声と息が耳に降ってきて、ぞくりと体がうずいた。
同時に、目の奥が熱くなる。
「ばかだなぁ。それは私の方だよ……っ」
「……いず」
「よっくん、ごめんね……っ」
気持ちがあふれ出して、止まらなかった。
黒い制服から透ける、かすかな日の光を感じながら、私は君の頬にキスをした。
君の目からも涙がこぼれたことが分かった。
「ばか」
そうつぶやき、君は私の唇に冷たい唇を重ねてきた。
その瞬間、うわーあいつらチューしてんじゃね? という騒がしい声が聞こえ、君は私たちを覆っていた制服を引いた。
急に視界が明るくなり、頬を真っ赤に染めた君の姿が鮮明に見えた。
「嘘ついたやつはこーだよ」
いつものようにツインテールをぐいっと引っ張られる。
「痛いー! そっちだって言ってくれなかったじゃん」
私がそう口を尖らせると、君はいたたまれない気持ちになったのか、
そのまま学ランを私の顔に押しつけた。
「ふがっ」
「……お前にやる」
これは、君の中学3年間の努力や、成長や、思い出がつまっているもの。
手にしてその重みを感じた瞬間、再び涙があふれそうになった。
「じゃあ、私は、これあげる。
よっくん風邪ひいても色々無茶しそうで心配だから」
私は手作りした健康祈願のお守りを君に押し付けた。
君は驚いたのか固まっていたけど、手にした瞬間、不自然な厚みがあることに気が付いてくれたようだ。