絶対値のゆくえ
「いずたそいずたそいずたそぉー」
「ちょ、呼びすぎだし!」
クラスでは他の男子たちに冷やかされるからか、君は私が1人でいるときによく話しかけにくる。
信号待ちをしていた時、連続で鳴らしすぎてカスカスいっている自転車のベル音が聞こえ、
振り返ったら君がいた。
「お前、今日の数学のテスト何点だった?」
「うーん85くらい」
「うわーまじか。俺70点台だったし」
「そうなんだ。……ねー、よっくんこの後ヒマ?」
「あーうん」
「じゃあ一緒にテスト直しやってから帰んない?」
勇気を出してそう誘ってみた。
ちょっと声がうわずってしまったし、上目遣いになってしまう。
だけど、君は少しだけ驚いた顔をした後、すぐ目をそらし、
「別にいーけど?」
と格好つけた言い方をした。
断られなくてよかった、とホッとしつつも、
私は自転車のペダルをこぎ、
「よっくんのくせに格好つけてんじゃねーよ」と大声を出す。
すると、
「つけてねーよ! お前だって女子ぶってんじゃねーよ」と言って、
君は頬を染めながらチャリで追いかけてきた。
気を抜いていたら、すぐに君に追い越されそうだ。