絶対値のゆくえ
|私と君|
☆
「いずー。片づけ終わったー?」
扉越しにお母さんの声が聞こえた。
「うん、だいたいー」
荷ほどきをして物の整理をしていたら、あっという間に夕方になっていた。
オレンジ色の優しい光に包まれた、新しい自分の部屋。
クローゼットの中には、記念に持ってきた私の中学の制服と。
その隣には、ボタンの無い君の学ランがかかっている。
寄り添うように並んだ、その2つの制服を見ると、
最後、キスをしてくれた君の感触を思い出してしまった。
「よっくん……」
胸が切なくなってたまらなくなる。
私は君の制服をハンガーから外し、ぎゅっと抱きしめていた。
って何してるんだろう、私は!
と、1人でテンパっていたら。
「ん……?」
がさりと紙がこすれる感触がした。
ポケットからかな?
その中を探ると、1枚の紙切れが入っていた。
「……っ。ばか、よっくんのばか……うぅ」
くしゃりと音を鳴らしながら、私はそれを握りしめた。
君の想いを知った私は、
部屋の中が真っ暗になり、母に「ご飯よー」と呼ばれるまで、1人で泣いていた。