絶対値のゆくえ
市民センターのフリースペースの机にて。
2人でテスト直しをしている途中、
君はノートに
|-1|=1、|+1|=1と書いていた。
「なにそれ、絶対値?」
「そう。ふと、中学入ってすぐ数学で挫折しかけたの思い出して」
「えー? 最初は簡単だったじゃん」
「や、この絶対値とか。さっそく意味不明じゃなかった?」
-1も+1も、0からの距離は同じ。
よって、正反対の数字に見えるけど、絶対値は一緒。どちらも1。
「今ならわかるけど、あの時は、マイナスの計算でテンパってたのに、その後すぐ絶対値を習って、
は? -1も結局は1なの? 何なのそれ? みたいな」
「まあ、確かに、慣れるまでは大変かもね」
こんな感じで。
私たちと同じようにグループで勉強している中高生の中、
あーだこーだと数学についての話をしていたけど。
「…………」
気がつくとお互い自分の問題の世界に入り込んでいた。
ちらりと顔を上げると、真剣なまなざしでノートに数式を書き並べる君がいた。
こっそり君を見ているのがバレないよう、私はすぐ下を向き、間違えた問題をもう一度解きなおした。
君の一生懸命な表情、好きだなぁ。
いやいや、私も集中、集中。