アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 



『専務、あとで、……あとで、説明しますからっ。
 あっ、勝手に私のつぼ焼き食べないでっ』

 ブチッといきなり電話は切れた。

 遥人が窓の上を見上げると、桜田と那智が揉めているのが見えた。

 遠目に見ても、まるで、子供の喧嘩だ。

 しかし、『パパ』?

 ……パパってなんだ?

 あの男、自分とそう年は違わないように見えた。

 那智の父親なわけはないし。

 那智があの男の愛人でパパとか呼んでいるわけでもないだろうし。

 そういえば、母親の恋人と家族ぐるみで付き合っていると言っていたが。

 もしかして、あれか、と思う。

『……まあ、いろいろと困った人なんですよ』

 あのとき、那智は、母親の恋人を評して、そう言っていた。

 確かに困った男のようだ。

 那智の母親と付き合っているはずなのに、梨花とも。

 っていうか、那智の母親の相手にしては若すぎないか?

 そういえば、母親は若い男が好きだとか言っていたが。

 妙子が、母親が恋人を家に連れてくるので困ると言ったとき、那智が同意していた。

『ああ、そういうのありますよね』

 あの男、那智の家にも出入りしているのか。

 まさか、母親が居ないときにも来てるんじゃあるまいな。
< 105 / 276 >

この作品をシェア

pagetop