アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
『専務、あとで、……あとで、説明しますからっ。
あっ、勝手に私のつぼ焼き食べないでっ』
ブチッといきなり電話は切れた。
遥人が窓の上を見上げると、桜田と那智が揉めているのが見えた。
遠目に見ても、まるで、子供の喧嘩だ。
しかし、『パパ』?
……パパってなんだ?
あの男、自分とそう年は違わないように見えた。
那智の父親なわけはないし。
那智があの男の愛人でパパとか呼んでいるわけでもないだろうし。
そういえば、母親の恋人と家族ぐるみで付き合っていると言っていたが。
もしかして、あれか、と思う。
『……まあ、いろいろと困った人なんですよ』
あのとき、那智は、母親の恋人を評して、そう言っていた。
確かに困った男のようだ。
那智の母親と付き合っているはずなのに、梨花とも。
っていうか、那智の母親の相手にしては若すぎないか?
そういえば、母親は若い男が好きだとか言っていたが。
妙子が、母親が恋人を家に連れてくるので困ると言ったとき、那智が同意していた。
『ああ、そういうのありますよね』
あの男、那智の家にも出入りしているのか。
まさか、母親が居ないときにも来てるんじゃあるまいな。