アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 はっきり行かない、と自分が言ったので、梨花は驚いた顔をした。

 いつも適当に受け流すだけだからだ。

「ロシア料理って、なにがあるんだっけ?」

 そう誤魔化すように言うと、
「さあ、知らないけど。
 美味しいんじゃないかって、……人に聞いたから」

 梨花は途中でなにかに気づいたように曖昧に答える。

 笑顔を取り繕った梨花は、
「やっぱりやめときましょうか。
 いつもの店にする?」
と言ってきた。

 なるほど、あの男が言ってたんだな、と気がついた。

 いっそ、行くと言ってやればよかった。

 自分と那智とのことは桜田と亮太とかいう奴以外誰も知らないし。

 桜田と鉢合わせて、気まずい思いをするのは梨花の方だ。

 そう思ったとき、目の前をあの二人が通った。

 大揉めに揉めている。

 ……何故、此処を通る。
< 107 / 276 >

この作品をシェア

pagetop