アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
「桜田はこの家の鍵を持ってるんだろ?」

「はい」

「で?」
「は?」

「俺にはくれないわけか」
とまた睨まれ、あげます、あげます、と慌てて立ち上がる。

「此処で桜田さんと鉢合わせても知りませんけど」

 そう余計なことを言いながら、食器棚の引き出しから出してきた鍵を渡した。

「そんなバレバレのところに鍵を隠すなよ」
と言いながら、遥人は受け取る。

 しかし、鍵の交換するなんて、なんだか恋人同士みたいだな。
 ……王様と下僕なのに、と思った。

「専務、昨夜は寝られましたか?」

 少し微笑みながら、そう問うと、遥人は、
「眠れるわけないだろう」
と言う。

「じゃあ、今から、少しだけでも寝ますか?」
と訊くと、遥人はちょっとだけ赤くなり、

「今からじゃ遅刻するだろうが」

 そう言いながらも、那智の膝に頭を預けた。

 そのまま目を閉じる。

「今日は話すのやめて、静かにしてましょうか」
と囁くと、どっちでもいい、と言う。
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