アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 那智は遥人の手に触れた。

 本当は彼に訊きたいことがある。

 なんで、貴方は眠れないんですか?

 なんで、貴方は……。

「那智」
「はい」

「お前が俺が寝ても帰らないのは、俺が途中で目を覚ましてもいいようにか」

「それもあります」

 遥人は視線を那智から外して言った。

「俺が夜、うなされているからか」

 痕がつくほど強く遥人が自分の手を掴んでくるときがある。

 最初の夜もそうだった。

 あれからなんだか遥人を置いては帰れなくなった。

「私、思うんですけど。

 シェヘラザードって、恐らく実在の人物ではないですが。

 本当に居たのなら、途中からは、物語は語ってなかったんじゃないかと思うんです。

 物語じゃなくて。
 語っていたのは、ただ、自分たちのことなんじゃないかと」

「俺はなにも話さないぞ」

「わかってます」

 それは那智を信用しているとかいないとか、きっと、そんなことじゃなくて。

 那智は遥人に笑いかけて言った。

「いいんですよ、専務はなにも話さなくても。
 だって、王様なんですから」

 那智、と呼びかけた遥人の手が那智の頬に触れる。
< 115 / 276 >

この作品をシェア

pagetop