アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
遥人と別れて歩いていた那智を誰かが呼び止めた。
「那智」
振り向くと、街路樹の向こう、スピードを緩めて走る車の窓が開いている。
つい最近見たばかりの車だ。
亮太がハンドルを持ったまま、助手席側に少し身を乗り出すようにして、こちらを見ていた。
「あんたんち、こっちだっけ?」
と言うと、違う、と言う。
昨日、友人宅で呑んで、そこからの帰りなのだと言う。
「乗れよ」
と言う亮太に、
「えー。噂になったらやだ」
と言うと、
「そしたら、専務と噂にならないだろ」
と言ってくる。
そりゃまあ、そうなんだけど、と思いながら、ああ、でもそうか、と思った。
その後の梨花の話など訊きたいのかもしれないと思い、同乗させてもらうことにした。