アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜




「乗った途端、大欠伸か」

 お疲れだな、と亮太に言われる。

「いやー、やっぱ車って落ち着くね。
 電車だと、外の空間って感じじゃない。

 車だと部屋みたいで。
 車で通勤って楽だろうね」

「渋滞がなけりゃな。
 この辺りは空いてるが。

 だがまあ、確かに、職場を出て、車に乗った瞬間にもうプライベートな空間だから、家に帰った気がするよ」

「私も車にしようかなあ」
と言うと、やめとけ、と言われる。

「すぐさま、ぶつけそうだ」

「あー、偏見偏見。
 実は私、ぼちぼち運転上手いのよ。

 ちょっと車庫入れとか縦列とかが苦手なだけで」

「それ、上手いって言わないだろ。
 っていうか、この空間が部屋みたいってことは、今、お前は、俺と部屋で二人きりってことだ」

「それが?」

「……そこで、それが? って訊くのが、もうな」
と横目に見てくる。
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