アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
会社の地下駐車場に着いた那智は呟く。
「前言撤回、あんたの車は疲れるわ」
「俺もだ」
二人で互いに文句を言い合いながら、車を降りた。
すると、ちょうど駐車場で常務と話していた専務と目が合ってしまった。
……やばい、と思ったのだが、亮太は素知らぬ顔で、
「おはようございますー」
と二人に頭を下げた。
慌てて那智も挨拶をする。
「おはよう。
坂上くん、朝から元気だね。
今度、また、テニス、付き合ってくださいよ」
部下にも丁寧な口調の常務は、穏やかに亮太に話しかける。
さすが、付き合いのいい亮太は、常務にまで気に入られているようだった。
常務はこちらを見、
「おや、和泉さん。
坂上くんと付き合ってたの?」
と笑う。
「はい」
えっ? はい?
今、勝手に返事したの、誰だっ?
と振り向いたが、もちろん、亮太だった。
「じゃ、今度、お暇なとき、おっしゃってください。
いつでも付き合います」
笑顔で言った亮太は、
「行くぞ、那智」
と手を握ってくる。