アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 常務に頭を下げ、そのまま引っ張られていく。

 此処で強引に振りほどくのもどうかと思ったからだ。

 常務のすぐ側に居る遥人を出来るだけ視界に入れないようにしていた。

 どんな顔をしているのか、怖くて見られないからだ。

 今も、背後が振り返れない。

 ゴルゴンが後ろに居るみたいだ、と思った。

 たまたま誰も居なかったエレベーターに乗り、階数ボタンを押したあとで、亮太は手を離し、大きく息をついた。

「……あ~、怖かった」

 専務のことだろう。

「怖いんならやめてよっ。
 なにやってんのよ、もうっ。

 あんたは怖かったで済むけど。

 私は今夜からどうしたらいいのよ」

 なにしてくれてんのよ、もう~っ、と文句を言うと、
「行かなきゃいいじゃねえか、専務のとこに」
と返してくる。

「……それは出来ない」
と言うと、亮太は溜息をついたあとで、那智の顎に触れると、軽く唇にキスしてきた。

 着きますけど、一階にっ!
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