アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 すぐさま、亮太は離れた。

 が、口紅がついている。

 慌てて、那智はそれを手で拭った。

 途中で、扉が開く。

「お、おはようございますーっ」
と乗ってきた人たちに、那智は笑顔で言いながら、宙に浮いている手で小蝿でも払う振りをした。

 横に居る亮太がぼそりと、
「お前、めちゃめちゃ冷静だな」
と言ってきた。

 全然、冷静じゃないですけど~っ!?

 こいつ、殺すっ、そして、専務も殺すっ。

 今まで専務がしなかったら、私のファーストキスがこんなことにっ。

 いや、知らないうちに親とかにされてそうだけど。

 それでも、記憶にあるうちでは、これが初めてだ。

 何度もしかけてやめた遥人を思い出し、もう絶対殴るっ、と八つ当たりしていた。

 梨花さんとはしてたくせにーっ、と今までの不満を噴出させるように、心の中で絶叫した。


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