アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
「ひどいじゃないですかっ。
 専務のせいで、亮太にキスされちゃいましたっ」

 えっ? 俺のせいか? という顔を遥人はした。

 いや、まったくその通りなのだが。

「……初めてだったのに」
とぐずぐず言っているのを遥人は黙って聞いていた。

 泣きながら、まあちょっと呆れてるかな、と思う。

 今頃初めてってどうなんだ。
 お前、幾つだ、とか。

 ところが、遥人は、何故か、
「大丈夫だ」
と言い出した。

 那智の肩に手を置き、
「大丈夫だ。
 お前のファーストキスはそれじゃない」
と言う。

「なにが大丈夫なんですか」

「……俺がしたから」
「いつ!?」

「最初の夜かな?
 寝てる顔があんまり可愛かったから」

 ちょっとだけ、と遥人は言う。

「ちょっともなにもないですよっ。
 なにやってるんですかっ」
と遥人の胸を叩くと、すまん、と言う。

「えーっ。
 ひどいっ。

 なにやってるんですかっ。
 私、初めてだったのにっ。

 覚えていたかったのにっ」
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