アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
那智が職場に行くと、ちょっとちょっと! と公子が入り口から手招きしてきた。
え? 私? と自分を指差すと、激しく頷く。
なんだろうな、と思い、廊下に出て行くと、強引に隅に引きずっていかれた。
公子は周囲を見回し、小声で言ってくる。
「式が早まったらしいわよ」
「えっ?」
公子は、まるで自分のことのように慌てていた。
「来週の日曜になるかもって」
「なんで急に」
幾らなんでも早くなりすぎだ。
もう三ヶ月はあったはずなのに
「どうも前会長の具合が悪いらしくてね。
入院する前に、梨花さんの結婚式を見たいらしいのよ」
前会長といえば、梨花の祖父のはずだ。
今は社長が会長を兼任しているが。
そういえば、随分前に体調を崩して、会長の座を降りたと聞いていた。
「早めるのなら、式場がもうその日しか空いてないかもって」
そのせいだったのだ。
昨日、遥人の様子がおかしかったのは。
「どうするの?」
と公子が母親のように那智の腕を握り、問うてくる。
だが、どうしようもない。
昨日の遥人のあれは、覚悟を決めた上での行動だったのだと今更ながらに気づいた。