アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 



「なに見てるんだ、那智」

 時間が合わなくて、今日も夕食はコンビニ弁当になってしまった。

 食べ終わった那智は、強烈なカレーの匂いのする遥人の部屋で膝を抱え、テレビを見ていた。

「いえ、あったかそうだな、と思って」

 見ると、ニュースでは程よく、カピバラが湯を浴びていた。

 目を閉じ、思索耽っているような、なにも考えてなさそうなような。

 カピバラに各地の温泉をプレゼントしたというニュースだった。

 どんだけ愛されてるんだ、カピバラ。

 家族連れが楽しそうにカピバラに青草を与えている。

「これ、いつまでやってるんだ?」
「この祝日までみたいですよ」

「じゃあ、行ってみるか?」

 え? と那智が振り返る。

「見に行ってみるか、カピバラ」
「……ちょっと遠いですよ」

「いいんじゃないか?」
と言い、立ち上がると、那智は笑った。

 カラの弁当箱を片付けようとすると、慌てて那智も立ち上がる。

「いいから、お前は珈琲でも淹れてくれ。
 ……逆の方がいいか」

 うちにインスタントはない、と言うと、
「そ、そうですね」

 はは、と那智は苦笑いしていた。



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