アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 っていうか、ほんとになにやってんだ、この人、と思っていると、遥人はまた壁の向こうを見ている。

 遥人に押さえつけられたまま、一緒に覗いてみる。

 声を上げそうになった。

 遥人の婚約者のはずの梨花が若いイケメンとキスして居たからだ。

 えーと……。

「ど、怒鳴り込んで行かなくていいんですか?」

「いい。
 余計なことは言うな」
と言った遥人は、

「声を上げるなよ」
と強盗かなにかのようなことを言い、手を離した。

 ふう、とようやく息をついた那智の手を引き、空いている会議室に押し込む。

「どういうことなんでしょう。
 ああいえ、すみません」

 自分が口を挟むことではないと思ったからだ。

「お前、あの男を知ってるな?」

「はい。
 何度か見たことがありますよ。

 うちの部署に来たことはないですけど。
 どっかの営業の人ですよね。

 受付の友達が凄いイケメンだって騒いでました……あ」

 しまった。
 婚約者の浮気相手のことを堂々と褒めてしまった、と思っていると、遥人は、
「本当にお前は一言多いな」
と言ったあとで、

「まあ、別にいい」
と言う。
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