アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 なにがいいんだ、とまた思った。

「前に、俺があの男を見ていたときも、お前、現れたな」

「ああ、たまたまですよ。
 あのときは、あの方一人だったから、専務、なに見てらっしゃるのかな、と思ったんですが」

 外で靴音がした。

 遥人は今度は那智の口に手をだけをやり、黙らせる。

 二人分の足音。

 ひとつはヒールだ。
 梨花だろう。

 それが消えたあとで、手を離した遥人は言った。

「仕事が終わったら、うちに来い」

「は?」

「どうもお前の口を塞いでおく必要がありそうだ」

 それは今みたいに、手で、という話ではなさそうだった。

「いや、あの、殺さなくてもなにもしゃべりません」
と言うと、

「誰が殺すと言った。
 いいから、来い」
と言う。

「さもなくば、今後、お前が持ってくる書類を全部突き返して、お前が会議のとき、お茶を運んでたら、足を引っ掛けて。

 ついでに、通すのが面倒くさそうな旅費交通費を発生させてやる」

 うわ〜、地味に嫌なこと言ってくるな、と思った。
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