アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 特に最後のが部長と揉めそうで嫌だな、と思っていた。

 役員の旅費交通費等は那智が処理することになっている。

 経費を抑えたい部長は通すなと言い、役員は通せと言い、板挟みになることもしばしばだ。

「わかりましたよ〜」
「そんな返事があるかっ」

「はいっ。
 では、専務様のおっしゃる通りにっ」

 おのれ、そう年の違わない若造のくせに〜、と思ったが、口には出さなかった。

 いくら梨花の婚約者でも、此処までの切れ者でなかったら、専務にはなれなかっただろうから。

「よし」
と言った遥人はポケットから薄い縁の眼鏡を出してかけた。

「それ、なんで、今はかけてなかったんですか」

 離れた場所に居る梨花たちを見るのに、何故、外していたのかと思い、訊いてみる。

「これは伊達眼鏡だ」

「そ、そうだったんですか」

 あの眼鏡も格好いいと言っていた連中に教えてやりたい、と思ったが、そんなことバラそうものなら、また余計なことを言うなと殴り殺されそうだな、と思っていた。

「あの、でも、私、専務の家知りませんが」
と言うと、

「この間、俺がさっきの男をつけてた場所にお前も来たろう」

「はあ、たまたま」

 地下駐車場の隅だ。

 太い柱が何本かあるところで、止めにくいのでみんな嫌がって、あの辺りには行かない。
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