俺だけ見てれば、いーんだよ。
1.学年一のモテ男
「おい、那菜(なな)」
またか。
「那菜」
「……」
「聞こえてんだろ?貸せよ」
私はため息をつくと筆箱を開ける。
そして、いつもの『十夜(とおや)セット』を取り出す。
シャーペン、消しゴム、定規に赤ペン。
それらをまとめて、隣の席の十夜に手渡す。
「俺を待たせんな。さっさと渡せよ」
「……えっらそうに!だいたいなんで毎日筆箱持ってこないのよ!」
授業中だけど、声のトーンがつい高くなってしまう。
「持ってこなくても、おまえに借りればすむ話だし。いちいち持ってくんのめんどくせーからな」
「私は十夜のぶんまで持ってくんのめんどくさいんですけど」
「フフン」
「なにそれ!なにそのフフンって」
「嬉しいくせに」
「……!嬉しくなんてないっ!」
「コオーラァ!!立石十夜に、井吹那菜!!」
突然、先生の雷のような声が降ってくる。
「はいっ」
思わず返事をして立ち上がる。
みんながクスクスと笑っている。
「夫婦喧嘩は休み時間にやれ」
「………!」
隣の十夜を見ると、頬杖をついてニヤニヤと笑っている。
コイツ、十夜は学年一のモテ男。
もちろん私は、夫婦どころか彼女でさえない。
特別可愛いわけでも頭がいいわけでもない、こんな普通の私が彼女になんてなったら、『立石十夜ファンクラブ』が黙っていないだろう。
十夜だって、彼女はいないみたいだけど、私のことなんて何とも思ってない。
隣の席の、ただの友達。
高2のクラス替えでひとりぼっちになってしまった私に、初めて声をかけてくれたのが十夜だ。
感謝はしてる。
だけど、私はそれ以上を望んでしまう。
1年の頃から、噂では聞いていたモテ男。
そばで見ると、私なんかよりも綺麗な顔をしていて、格好いいし、口は悪いけど実は優しい。
私は、十夜が好きだ。
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