俺だけ見てれば、いーんだよ。
「目を逸らすなよ。俺を見ろよ、那菜」
クラスの中のざわめきが遠くなって、この世界に十夜と私がふたりっきりになった気がした。
「那菜」
いつもイジワルな十夜の声が、とても優しく聞こえて。
十夜は、こんなに優しい声を持っていたんだと驚くと、不思議と吸いつけられるように、視線と視線が合った。
でも、何も言えなくて。
十夜の視線に絡め取られて、身動きできずにいた。
「いつも」
「いつも?」
「いつもこうやって、女の子だましてるんでしょ?」
私の口から出たのは、そんな、思ってもいない言葉で。
十夜を傷つけるかもしれない、嫌な言葉で。
だって、嫌だったの。
本当は、ずっとずっと、嫌だったの。
女の子と話すのも、
笑顔を投げかけるのも、
その手で触れるのも。
十夜がわたし以外の女の子と関わるのが、嫌だったの。
心の奥底を覗きこんだら、『独占欲』っていう醜い感情が入っていて。
びっくりした。
友達なんかじゃいられないくらい、私は、十夜のことが好きになっていたんだ……。
「そう思われても、仕方ないよな」
十夜の悲しそうな声で、はっと我にかえる。
「……ごめん、言い過ぎた」
私はあわてて謝る。
「まあ、俺がモテるのは、俺のせいじゃねーけどな!持って生まれたこの顔な」
すぐにそう言って笑った十夜に、少しほっとする。
……よかった、いつもの十夜だ。
独り占めしたい、そう言いたい。
無理なのはわかってる。
この想いはどうしたらいい?
私は……。