俺だけ見てれば、いーんだよ。
3.なりゆきの言葉
……翌日。
昨日の夜は眠れなかった。
寝不足でふらふらしながら、ようやく学校に到着する。
だって、昨日の放課後、泉は十夜に告白したはず。
いつも3人で帰るのに、昨日は十夜と泉は私とは別に帰った。
何度も泉にラインしようと携帯を手に取ったけど、怖くてできなかった。
だって、泉の告白に十夜がOKしていたら?
泉は大切な親友だ。
喜んであげなくちゃいけない。
……わかってるけど。
泉の恋が叶ったら、十夜がすきなこの気持ちを、捨ててあきらめなくちゃいけない。
そんなこと、出来るのかな。
十夜を独り占めしたいとさえ思ってしまう、こんなにも大きくなってしまったこの気持ちを捨てるなんて。
でも、ふたりがつきあうようになったら、『出来る』とか『出来ない』の問題じゃなくて、そうしなくちゃいけないんだ。
「よっ、那菜」
教室に入ると、先に来ていた十夜が私に向かって手を上げた。
「おはよ、十夜」
まっすぐに顔が見れない。
「どした?顔色悪いぞ」
「別に平気」
「あっ、顔色じゃなくて、顔が悪かったのかー!……なんってな!」
「……」
いつもの十夜のイジワルに返す元気もない。
「なんだよ、那菜。マジでどうした?」
十夜が私の顔を覗き込む。
不覚にも胸がドキドキしてしまう。
そんな目で見ないでよ……私のこと好きでも何でもないくせに。
「……別に。ちょっと寝不足なだけ」
「おまえ、今にも死にそうな顔色してるぞ」
大丈夫、失恋して死んだ人はいない……はず。
「死ぬわけないでしょ、バカ十夜」
「なんだよ、ブス那菜」
「最低!!」
「おっはよー!」
チャイムの鳴るギリギリの時間に、陸上部の朝練を終えた泉が教室に入ってきた。
「おう、おはよう泉ちゃん」
「おはよ、泉」
いつまでも避けていられるわけはない。
休み時間になったら、泉に聞いてみよう。
そう思った瞬間、チャイムが鳴った。