俺だけ見てれば、いーんだよ。
「井吹!おい、井吹!」
遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。
「……もうちょっと、寝かせて……」
「コラ!井吹那菜!起きろ!」
「はいぃっ!!」
その声が先生のものだとわかった瞬間、私は勢いよく立ちあがった。
次の瞬間、私の頭の中の血がザーッと足元に落ちていくような感覚。
やだ、立ちくらみ?
しかもこれはひどいよ。
今までになかったくらいのひどさだ。
こらえようと思ったけど、私はそのまま後ろにのけぞって倒れた。
「那菜!!」
地面に倒れたはずの私の体、なぜかどこも痛くない。
意識はあるのだけれど、目の前が砂嵐のようになって何も見えない。
誰かがひょいっと、私の体を持ち上げた。
「先生、保健室行ってきます」
十夜の声だ。
十夜が私を抱きあげてくれてるの?
ゆらゆら、ゆらゆら。
保健室に連れていかれる。
目を開けると、砂嵐はおさまっていて。
私を軽々と持ち上げるなんて、やっぱり、十夜は男の子なんだな……。
「十夜…」
「ブス那菜、無理すんな」
「ごめんね」
「これから先、お前を『お姫様だっこ』してくれるやつなんて他にいねーぞ。貴重な経験、よーく覚えておくんだな」
「十夜のイジワル」
「おー、なんとでも言え」
下から見上げた十夜の顔は、やっぱり綺麗で。
初めての男の子の匂いに包まれて、なんだか安心してしまって、再び眠気がやってきた。
「眠いんだったら寝ろ。俺も責任感じてるから」
え?何?どういうこと?責任?
頭の中はクエスチョンマークだらけだったけれど、やってきた眠気には勝てず、私はそのまま十夜の腕の中で眠ってしまった。