俺だけ見てれば、いーんだよ。
2.私は……
「少なくともあたしは、あのバカバカしいファンクラブの人たちよりは、十夜にとって近い存在だと思う」
泉が言う。
確かにね。
私たちは、近い存在だと思う。
でも、友達だよ?
単なる友達。
少なくとも私は。
友達以上になりたいのは、私だけ。
いいや、泉もか。
十夜は泉には優しい。
泉だけじゃない、他の女の子にもだ。
……私にだけはいつもイジワルを言う。
所詮、『文房具を貸してくれる、便利な女』、それくらいにしか思われていないんだろう。
そんなポジションでこの恋は終わってゆくんだろう。
伝えられないまま。
友達のまま。
「那菜?」
「えっ、うん、何?」
泉の言葉に、はっと我にかえる。
「どうしたの?黙り込んじゃって。もしかして那菜も十夜のことが好きなの?はっきり言いなよ。友達でしょ?」
「ちっ、ちがうよ。さっき好きな人いないって言ったじゃん」
「嘘、ついてるんじゃないの?」
「好きじゃないよ…。誰があんなやつ…」
泉に嘘をつくたび、胸の中がチクリと小さく痛む。
泉みたいに、好きな人を好きと言えたら、どんなに楽だろう。
「そ。じゃあ、がんばる。那菜も応援してくれるよね?」
応援?
本心は。
泉の告白をなんとしても阻止したい。
ホントはそう思ってる。
泉は大切な友達だから、本当なら応援してあげたい。
でも。
でも、十夜のことが好きだから。
応援したくなんて、ないんだよ……。