俺だけ見てれば、いーんだよ。






「よっ、ただいま!……って何泣いてんだよ、那菜」

「……なんでもない」

「なんでもなくないだろ」


十夜が、私の顔をのぞきこむ。

近い、近すぎ!

こんなに近くで十夜の顔見たのって、初めてかも。

胸がドキドキする。

心臓の音、聞かれちゃうよ。



整った顔。長い睫毛。

初めて見る真剣な顔。


「……ぷっ、だっせーー!!おまえ鼻水出てんぞ」

そういうと、十夜は泉のハンカチで、ごしごしとわたしの鼻水を拭いた。

「あんたにはデリカシーってもんはないの!?」

「だって、『なんでもない』んだろ?……もっと俺を頼れよ」

「え?」

最後の方はチャイムの音で聞こえなかった。

「なんでもねーよ」


「じゃね、那菜」

泉は自分の席に戻っていった。


次の時間は、自習だった。

「やったーーー!!」

腕を上げて喜ぶ十夜に尋ねる。




「また告られたの?」

「まーな」

「下級生でしょ?」

「おー、可愛かったぜ。先輩、ずっと好きでした、なんって言ってな」

「へえー。また断ったの?」

「可愛かったんだけどな」


どうせ私はブスですよ。

十夜の周りにいる女の子とはくらべものにもならないですよ。



好きな人にブス呼ばわりされる私って、最大級に不幸なんじゃない?私。


普通、ブスだと思ってても言わないよね。

十夜はやっぱりイジワル。

サイテーなやつなのに、どうして十夜を好きになっちゃったんだろう。





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