加賀宮先輩は振り向いてくれない
加賀宮諒太、それは聞き間違えでなければあの加賀宮先輩のフルネームではないか。
そしてやっぱり私の丁度目の前の式台で挨拶しようとしている長身のイケメンは加賀宮先輩なのだ。
驚き半分納得半分の笑顔を浮かべると目が合った。スピーチが始まるほんの数秒前なのに、先輩の唇は声を出さずに動く。
「お、つ、か、れ?」
その唇の動きを読み解けば、お疲れ。私の新入生代表挨拶のことだろう。素直に嬉しい。
私がリアクションを返す前に先輩は一礼して挨拶を始めていて、その童顔で綺麗な顔を眺めることに私は徹するのだ。
3分程で終わった挨拶は、拍手喝采、特に女子が笑顔と言うかニヤケ顔で手を叩いている。
私も一般常識の範囲内で拍手をし、舞台から降りた先輩を目で追うと一瞬目が合った。先輩の手が腰元で小さく揺れる。これは俗に言うバイバイだろう。
なんてサービス精神旺盛な人なんだ。
私も小さく手を振ると先輩が笑った時がした。
各クラスごとに教室に移動してHRが始まる。担任の自己紹介を終えて生徒の自己紹介が始まって数分、私の番まで残すは二人。
私の二つ前の人が立ち上がったとき一瞬クラスがざわついた。
「十八番、バーンズ・セリシア・愛羅(アイラ)です。得意科目は数学、中学は帰宅部だったけど高校はマネージャーやりたいと思ってます。」
なるほど、ハーフか。教卓の前でお辞儀をした私より若干低そうだがそれでも160は越えている女の子は茶色の髪を鎖骨まで伸ばした可愛い顔の子だった。まぁ、でもたいした感想はない。そんなことより自分の挨拶の内容を考えなければいけないのだ。
そうこうしているうちに私の番、立ち上がって教卓前にいくとヒソヒソと小さな声で私の容姿を誉める声。やっぱり見た目が良くて損はない。
「20番、結城時雨です。得意科目は数学で、中学校では美術部でした。高校ではマネージャーをやりたいと思ってます。一年間よろしくお願いします。」
当たり障りのない、バーンズさんと被った内容の挨拶だがどうやらクラスメイトの心は掌握できたようだ。
熱視線を感じながら席に戻ればバーンズさんと目があった。
どうやら私にライバル心でも感じているようで、すごく渋い顔だ。まぁ私は如何なる事でも年中無休で挑戦受付中。いつでも挑んできてほしいものだ。