加賀宮先輩は振り向いてくれない
すると誰かが私の肩に手を置いた。
手の主の方を向けば加賀宮先輩で、若干の、本当気持ち分の隙間を開けて傍に立っている。190cmのすらりとした長身から微かに石鹸のにおい。
女子か!男子なら柑橘系とかムスクとかあるでしょ!男子が選ぶ女子の理想の香り♥石鹸♥みたいな匂いって驚きだよ!
顔に出ないがそんなことを真剣に考えていると、加賀宮先輩と目が合う。
「結城さんみたいな美人がマネージャーになってくれたら俺達全国大会も行けそう。」
「へ?」
あ、大変だ。不意打ちすぎる。顔がだんだんと赤くなっていくのが自分でもわかる。
真顔でそんなこと言われたら誉められなれてる私でも照れるわけで、あー心臓が強めに脈打ってる。
「なんてな。まぁ考えといてくれ。」
ぽんっ、と肩に置かれていた手が私の頭に移動した。
そして数回頭を撫でられる。程好い重みと力加減、少しだけうっとりしてしまう。頭を撫でられ気持ち良さそうにしてる動物の気持ちがわかった気がする。
「あー!加賀宮君が女の子たぶらかしてる!逃げて結城ちゃん!」
からから玉を転がすように澄んだ笑い混じりの声で雪下先輩がそう言うと、私の頭から加賀宮先輩の手は離れていった。
なんだったんだ、今の。うっとり、じゃないぞ!容姿端麗頭脳明晰才色兼備の私らしくない!落ち着け時雨さん!
「入学式の後、俺等第2体育館で練習してるから。気が向いたら来てくれ。」
私の目をしっかり見つめてそう言った後に優しく笑う。
童顔なのが際立ち、数秒にも満たない間に私は加賀宮先輩ってこんなに人懐っこく笑うのかなんて思っていた。
「是非、行かせてもらいます。」
しっかりとそう宣言すると、なんだか意外そうに目を開いた後に嬉しそうな表情の加賀宮先輩がまた頭を撫でてきた。今度は少し乱暴だ。
「か、加賀宮先輩?」
「あ、悪い悪い。」
なんて言って撫でるのをやめた先輩は時計を見て少し何かを考える。
「結城さん、悪いけどこれから着替えなきゃいけねえから、また入学式後にな。雪下、お前も出てけ。」
もう時刻は8時前、ただ喋ってただけだが思いの外時間は進んでいた。
名残惜しい気もするが、午後には会えるのだ。そう考えれば退屈の象徴みたいな入学式も乗りきれそうな気がする。