加賀宮先輩は振り向いてくれない
第2章
1年生3組20番の私だが、座っている席は一番前。入学式の新入生代表挨拶があるからだ。
プログラムも終盤戦、残すは生徒会長挨拶と新入生代表挨拶だ。
「それでは続きまして、新入生代表挨拶です。新入生代表 結城時雨さん、お願いします。」
背筋を正し起立、足音をたてない優雅な歩き方を意識して歩く。会場に誰のものとも知れぬ感嘆のため息がいくつも生まれた。
私は私の美しさに見合う歩き方、話し方、食べ方等をすべて知っている。それは私が親に教わったことではなく産まれたときから自然にわかっていたことなのだ。きっと私は美人になるべくして産まれ、なるべくして育っているのだろう。
「ご来場の皆さま、先生方、そして先輩方。春の麗らかな日差しの心地よいこの日に、私達28期生はこの県立桜美高等学校に入学します。」
なんて定型文にも程がある始まりでこれはまた定型文通りの挨拶をしながら、私は式場中を見渡す。
残念ながら加賀宮先輩は見つけられなかったが、雪下先輩は満面の笑みで私を見ている。楠先輩も驚きながらどこか納得した顔で、目が合うとウィンクをしてくれた。
2分ほどの短い挨拶、盛大な拍手の後に壇上から降りる。次は生徒会長挨拶だ。
「それでは続きまして、生徒会長挨拶。生徒会長、加賀宮諒太さん。お願いします。」